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撃ち抜けないのは、美女の心と物事の急所だけさ。
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<前回までのあらすじ>

→つくば100キロウォーク2012 その1
→つくば100キロウォーク2012 その2
→つくば100キロウォーク2012 その3
→つくば100キロウォーク2012 その4
→つくば100キロウォーク2012 その5


当初の個人的な目標として設定していた69kmの陸橋を越え、
moonさん、カービィさん、あららちん、そして自分の4人は歩きだした。

陸橋の写真は、通り過ぎたあとに振り向いて、
何度か携帯で撮影した。

でも、自分の古い携帯カメラでは
真っ暗でほとんど何が写っているのか分からなかった。

「思い出の場所」を通過したことで、
もっとこう感動的な展開を期待していた部分もあったのだけど、
過ぎてみると意外と素っ気ないものだった。

自分にとってはここまでmoonさんたちと辿り着くことが
今年の100kmウォークに挑戦した最大の目標であったし、
この陸橋を通過することがひとつのゴールでもあったのだけど、
他の3人にとってはあくまで通過点ということなんだろう。

歩きながら考える。

去年はこの道を「夢中」で歩いていた。

まさに「夢中」という言葉の通り、
夢と現実とを交互に行き来するような朦朧とした意識の中で、
ただただ霧雨の中で足を動かし続けた。


目指していたのは、
この時点では「70km地点」にあると思っていた休憩所だ。

その後、折り返し歩いてきた見知らぬ参加者に
それが「70km」ではなく「73km」であることを教えてもらう。

頭の中で何度も何度もその3kmに必要な時間を計算し、
むしろこのまま足切りの制限時間になっていてくれとすら考えていた。

自分にとってのゴールは何kmだ?

ここまで行ったらリタイヤしてもいいじゃないか、
誰に自慢できる訳でもなく、誰に褒めてもらえる訳でもなく、
もう充分過ぎるくらい歩いてきたじゃないかと考える。

明け方のこの時間、どこかに酔狂なタクシードライバーが
りんりんロードの路肩にタクシーを停めて
休んでやしないかと周囲に目を凝らしながら歩く。

もしこのとき、自分にこの周囲の土地勘があったら、
きっとこのまま横道に逸れて国道に出たことだろう。

そして、くそったれやってられるかと思いながら
タクシーを停め、どこか別の場所に行っていたはずだ。

それをしなかったのは、
「友情」とか「意地」とかそんな素敵な理由じゃない。

ただただ路肩にタクシーが停まってなかったからだし、
ただただ自分にこのへんの土地勘がなかったからだ。

タクシーが停まってたら間違いなく乗ってるし、
土地勘があったら間違いなく帰ってる。

この後のことなんて知ったことか、
家でもホテルどこでもこのまま帰って風呂入って着替えて横になって、
頭から温かい布団を被って眠ろう。

何度でも何度でも問いかける。
自分にとってのゴールは何kmだ?

今か?
そうだ、タクシーが見えたら、それはもうゴールだ。

空が段々と明るくなるまで、そして次の休憩所に辿り着くまで、
ずっと繰り返し繰り返しそんなことばかりを考えていた。


今年、69km地点を越えたあたりから、
歩きながらずっと去年のことを思い出していた。

そんな辛い思いをした場所に、
なぜか今年もまた立っている自分が、歩いている自分がおかしかった。

69km地点を過ぎた今となっては、
次の目標はもう100km以外には考えられない。

今思えば、あのときタクシーがなくて本当に良かったと思う。
土地勘がなくて本当に良かったと思う。

去年、最後まで歩ききることができたからこそ、
今年がある。今がある。

歩きながら、少なくとも今年はタクシーを探してはいないし、
目の前の景色から自分がどのあたりを歩いているのかを
きちんと把握している自分に気が付いた。

たぶん、なんとかなる。

それが、去年の100kmウォークから1年を経た今、
浮かんでくる正直な気持ち。

だから、どんなに自分を誤魔化し騙してでも、
何が何でも今年は歩き切ってやろうって気持ちがあった。

それはきっと「覚悟」って言葉に近いと思う。

今だから言えるけど、100kmに必要なのは、
もしかしたら練習でも経験でも装備でもなくて、
その「覚悟」なのかもしれないって思う。

どうしたら自分が100kmと向き合う「覚悟」を持てるか、
それは人によっては練習によって得られるものかもしれないし、
経験によるかもしれないし、装備によるかもしれない。

人それぞれだけど、ちゃんと100kmと向き合う「覚悟」さえ持てれば、
たぶん、なんとかなる。

それが、100kmウォークなんだと思う。

自分の少し前で、moonさんの傍にぴたり寄り添うように歩く
あららちんとカービィさんを見る。

今回、他の誰よりもその「覚悟」が強い2人だ。

去年の100kmウォークの経験者であり完歩者、
その怖さ、辛さを知っている2人。

moonさんがケツが痛いと言い出し、ケツを出しながら歩いてる。
白いケツが夜の道に浮かぶ亡霊のように上下に揺れている。

深夜のテンションも手伝って、腹がよじれるほと笑う。

あららちんがおならをしたいというので、
男性陣はその後ろにぴたりと並んで歩く。

「さぁ思いっきりどうぞ!」

ここまでくると軽いセクハラだ。

今年はmoonさんもいる。
4人で歩いてる。

去年、すっかり明るくなった頃にだどり着いた73km藤沢休憩所は、
まだ夜明け前、3時半を少し回った頃に到着した。


休憩所に着いてすぐ、足とケツの状態を確かめる。

60km筑波休憩所で少し長く休み過ぎたこともあるので、
ここではそんなに長く時間を取るつもりはなかった。

痛みが気になるところにゲル状のロキソニンを塗り、
擦れて皮が薄くなり始めているところはテーピングで補強する。

ふくらはぎや太ももはもうパンパンだ。

前日の筋肉痛が翌朝になってやってきている感じで、
一晩かけてなお痛め続けている筋肉は既に熱を持っている。

しかし、それらを含めてもちろん距離相応の痛みだと思う。
ケツを除いた足腰の状態は去年よりも良好だった。

休憩所ではカロリーと暖を取るべく
甘く温かいものが飲みたいと思っていたのだけど、
参加賞のマグカップをスタート地点に置いてきてしまったため
運営が用意してくれていたホットコーヒーは飲めなかった。

ペットボトルさえあればいいと考えていたけれど、
何だかんだで使う機会はあるもんだ。ちょっと失敗。

そうこうしているうちに、すぐに出発予定時刻になる。
リュックを背負い、再び歩き出す。

ほんの数分の休憩だったけど、それでも動き始めは辛い。
まさに天国から地獄だ。

それでも、次の80km土浦休憩所まではたったの7km。

もちろん歩くにしては充分過ぎるほど長い距離なのに、
ここまでくると7kmに付く冠には「たった」という言葉しか
思い浮かばないから面白い。

出発してしばらくすると夜明けが訪れた。
徐々に明るくなる朝の空気に包まれながら、黙々と歩みを進める。

歩きながら、だんだんと自分のペースが落ちていることに気が付いていた。

眠気もあるのだけど、
それ以上に自分の体力が限界に近付いている感覚があった。

それもそのはず、去年よりも1~2時間速いペースで歩き続けているのだ。
雨が降っていないことを差し引いても速すぎる。

また、自分の当初の目標を達成したという安堵感もあったのかもしれない。

息も絶え絶えになりながら
なんとか3人の後を付いていくのがやっとだった。

しばらく歩いては遅れ、少し早歩きをして追いつき、
またしばらく歩いては再び遅れる状態が続いた。

そんな様子を見かねたmoonさんが繰り返し声を掛けてくれた。

カービィさんは何度もこちらを振り向き、
時間はあるからもう少しペースを落とそうと提案してくれた。

あららちんは遅れがちな自分の手を強く握り、
しかしそれでいて優しく引っ張ってくれた。

このまま歩くから少し眠れば楽になるよ、と言ってくれた。

69km地点を勝手にゴールと考えて
満足していた自分が少し恥ずかしくなった。

みんな、moonさんと100kmを歩き切るんだって、
一緒にゴールしたいって、誰一人欠けても駄目なんだって気持ちを感じた。

なんてことはない、今年の100kmウォークに挑戦するにあたって
「覚悟」が一番足りなかったのは自分自身じゃないか。

情けねぇ情けねぇ情けねぇ
何やってんだオレは。

ずっと手をつないでくれているあららちんを見る。

あららちんは、つきっこ発足当時からmoonさんと一緒に走り続けてきた。
ずっとmoonさんと共に、挑戦し、応援しあい、支え合ってきた。

moonさんがつきっこの父親であるならば、
あららちんは、つきっこの母親だと思ってる。

今年の大会も、moonさんの次にエントリーをして、
ゼッケン2番を手に入れていたのはあららちんだった。

いつでも一緒にいるために。
ゴールの瞬間、その隣でmoonさんを祝福するために。

あららちんの2012年5月26日、
本番当日の明け方に書かれた日記を抜粋する。


最後にむんちんの横を通過したメンバーとして救えなかった後悔と
心ない言葉をぶつけてしまった後悔。
もうこんな思いは持ちたくない。

だから今年も100kmを歩くのか。

そんな単純じゃない。

ほんとつらかった。
ほんとつらかった。

つらいつらい言っても
どれだけつらかったか
痛かったか
寂しかったか
怖かったか
長かったか
暗かったか
冷たかったか
地味だったか
なんてわかってもらえないだろう。

それだけ生きてきて最高のつらさだった。

だけど、それでも、あそこらへんに置いて来てしまった後悔を拾いに行きたいと思う。
拾って、むんちんがゴールしたらぽーんと打ち上げて、それで消えてなくなると思う。
そうしなくちゃいけないなと思う。

原則はむんちんより先に行かない。
願わくは、むんちんがゴールするところを見たい。
たくさんの仲間でその瞬間を祝福したい。
がんばらないとね。

ありがとうあららちん、
その気持ち、充分通じた。

だから、オレも頑張ろうと思う。
なんとしても歩こうと思ってる。

そして、今度は少し前を歩くカービィさんを見る。

今年の大会前日、最高の状態で本番を迎えるためにつくばに前泊し、
そこで決起会と称してmoonさんたちと飲んだ。

その場は21時過ぎには解散したと思う。

でも、翌日に備えるために早めにホテルに戻ろうとしたけれど、
どうしても翌日の本番が不安でたまらなくて、怖くて怖くてたまらなくて、
その後、ホテル近くの焼き鳥屋でもう少し飲もうって話になった。

付き合ってくれたのは、同じく前泊していた
カービィさんとジンさんだった。

少しだけジンさんの話をする。

ジンさんは以前働いていた会社の先輩で、
実を言うと、今年もまた100kmウォーク大会に参加しようと決めたとき、
絶対に誘おうと思っていた一人だった。

ジンさんの凄いところはいくつかあるけど、
特に凄いと感じることが2つある。

1つ目は、目標を決めたら、それに対して徹底的に準備できること。

2つ目は、自分が決めたことであれば、
それがどんなことであろうとちゃんと向き合おうとすること。

案の定、ジンさんは今年の100kmを歩き切った。

努力を外に出さないけれど、いやときには過剰にアピールするけれど(笑)、
それでもちゃんと向き合ってくれたのが嬉しかった。

まぁ、初顔合わせの席で

「100kmをただ歩くだけですよね」

の名言と共にチームに強烈なインパクトを残し、
その後、酔っぱらって終電を逃し、
うちに泊まりに来たあたりも含めてさすがジンさんだよなって思う。

話を戻す。

カービィさんは、本人曰く「moon piece と愉快な仲間たち」の一人で、
P-diaryを読んでいれば必ずと言っていいほど出てくる
つきっこのキーマン的存在だ。

好き嫌いが激しくて気が付いたら誰彼構わず喧嘩してるんだけど、
それでも誰よりも情に厚く、侠気のある人だと思ってる。

現に去年、失意のmoonさんに対して誰よりも早く発破をかけ、
誰よりも早く参加を決意していた。

誰もが「もうやりたくない」と口をそろえる中で、
唯一、そのときからもう1度100kmを歩く「覚悟」をしていた。

カービィさんの2011年5月31日の日記を抜粋する。

 

オレは

オレなりにむんさんの辛さ 悔しさ分かるつもり。
オレもあの雨と風の中歩いた。
寒かったし辛かった。

サイトの管理人でリーダーで
打ち上げ会場の主で
逃げ場のない中のリタイアを言うことが
どれだけ辛く情けない気持ちだったか
全てじゃなくても半分くらいは分かってるつもり。

リベンジだなんて
あの辛さ知らない奴が言ったって説得力ないよな。
オレが言ってもダメか?

オレはやりたいよ。
ゴールで握手したいよ。
あんな87kmで泣きながら握手したまま終わりにしたくない。


このとき自分はブログも開設してなかったけれど、
でも、100kmを歩き切ったあとでこんなこと言える人がどれだけいる?

その人がね、やっぱり本番を前にして「怖い」って。

特にカービィさんは1度歩いてるから
「やれて当たり前」みたいな雰囲気になってるけど、
そのプレッシャーは相当なものだったと思う。

その気持ちは2012年5月25日、本番前日の日記から引用する。


えー
不安やらプレッシャーで、
ここ何日か
携帯日記に言葉も浮かばず
押し潰されそうな気持ちと戦っていました。

去年歩いたし
今年はむんさんのリベンジだ、なんて
オレは100キロ歩くのが当たり前みたいに思ってる奴もいるだろうけど、
100キロ歩くのって
そんな簡単じゃない。
オレだって
恐くて恐くて仕方なかった。
この数日、ホントにツラかった。
散々デカい口叩いてきた手前、
そして背負ってる言葉もあって
弱音吐く訳にもいかず、
いつもどおりの自分を演じてた。(つもり)

本当はきっと
多分きっと
誰よりも恐かった。

こんなのも書くつもりなかったけど
一旦弱音吐いて
リセットして
気持ちを前に向けるよ。

やるしかねー。
やるしかねんだよオレ達は。
この1年
ずっと100キロの事を考えていたんだから。

頑張ろう。
頑張ろうぜ。

つーか、いい加減
明日明後日で解放されたい(笑)


それも含めて、2度目の100kmウォーク。
昨日は、ちょっと飲み過ぎた。

でも、これも今の「覚悟」に必要な儀式みたいなものだった気がする。
大会前の高揚感なんて言葉で片付けたくないんだ。

去年、あの日から積み重ねてきた1年間を
今ここに全てぶつけるつもりで、あららちんもカービィさんも歩いてる。

そんな気持ちで一緒にいれることが、たまらなく嬉しかった。

できることは全部やってやる。
オレ、この人たちと一緒にゴールまで歩く。

長い長い100kmの道中には、必ず自問自答する瞬間が訪れる。
そして、腹をくくらなきゃけないと思う瞬間もまた、同じように訪れる。

自分は、きっとここで腹を決めたんだと思う。

去年の80km土浦休憩所で介抱してくれたベティさんのように、
87km藤沢休憩所で抱きしめたmoonさんの気持ちのように、
背中を押してくれる人が、今年もいる。

朝6時を回る頃、見なれた景色が近づいてきた。

そこは80km土浦休憩所、
2012年つくば100kmウォーク大会、最後の折り返し地点。




→その7へつづく

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