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撃ち抜けないのは、美女の心と物事の急所だけさ。

どうして気がつかなかったんだろう。

徐々に強くなる雨脚。
メガネに雨粒がぶつかり視界が悪い。

ポンチョのフードは風に煽られ、
雨と汗で濡れた髪が肌にはりつく。

自分の足音だけが単調なリズムを刻み、
耳から聴こえる音は、眠気と疲労で朦朧としている意識の上を流れていく。

60km地点の筑波休憩所から、73km地点の藤沢休憩所まで13km、
自分はずっと一人で歩いていた。

すれ違う人もなく、後ろに人影もなく、
変わらない景色がすっかり明るくなった頃、
やっとの思いでたどり着いた藤沢の休憩所で、彼のリタイアを知った。

答えてくれたのはみゆきさんだったか、
ベティさんだったか、カービィさんはもっと先に行ってた気がする。

携帯にメールが入ってるよ、と涙ぐみながら教えてくれた。

慌てて携帯の電源を入れて、
メールを確認した。

moonさんのメールには、

「69キロ地点。リタイアです(>_<) ごめんなさい。」

と書かれていた。


どこで追い抜いたんだろう。
moonさんは自分の前を歩いていたはずだ。

60kmまでは、ほとんど一緒に歩いていた。

右足にできたマメの痛みが我慢できなくなって、
治療とテーピングのために自分だけが筑波休憩所に残った。

だから、一緒に歩いていたつきっこのメンバーは、
自分より先に進んでいるはずだった。

早く追いつかなきゃ、みんなと一緒に歩かなきゃ、
もし次の休憩所までにみんなに追いつけなかったら、
俺の気持ちがもうもたないって、ずっと思いながら歩いていた。

だから、前しかみてなかった。

陸橋の下にいたmoonさんに気づくことなく、
声をかけることもできずに。

後から聞いた話では、60kmを超えてから、
moonさんのペースは徐々に落ちて行き、
他のメンバーともはぐれてしまったのだそうだ。

69kmの陸橋の下に着くまで、moonさんは何を考えていたんだろう。
きっと、いろんな気持ちと闘っていたんだと思う。

リタイアを決断する前に、あのメールをみんなに送る前に、
自身の意地と、プライドと、リーダーとしての立場と、
もしかしたら父としての威厳と、
絶え間ない痛みと、疲労と、眠気と、寒さと、
残りの距離と、今までの道程と。

誰も通らない真っ暗な道で、そして陸橋の下で、
何時間も、いや、もっともっとずっと前から、必死に、懸命に。

ずっと闘っていたはずなのに、
自分は気がつかなかった。

60kmまで、ずっと隣にいたのに。
69kmの陸橋を、彼がいたはずのその場所を、今通ってきたはずなのに。

悔しかった。

情けなかった。

どうして気づかなかったんだろうって、ずっと思ってた。

もちろん、気づいて声をかけたとしても、
結果は変わらなかったかもしれない。

「うるせー!もうやってられっか!」って言われたかもしれない。
なんか言いそうだ(笑)

でも、気づけば何か変わっていたかもしれない。
声をかけていたら、次の休憩所まで一緒に歩くことができたかもしれない。

そして藤沢休憩所まで行けたなら、
その次の土浦休憩所くらいまでなら、辿り着くことができたかもしれない。

たら。れば。

言い出したらキリがないんだけど、
でも、あのとき、あの場所、あのタイミングで、
自分に何か出来なかったんだろうかって、ずっと引っ掛かってた。

この1年間、ずっと。

自分も、moonさんと一緒にゴールしたかった。
moonさんに歩ききって欲しかった。

自分はその後、ミルトンさんにロキソニンを貰って息を吹き返し、
土浦休憩所でベティさんに元気付けられ、
折り返し戻ってきた藤沢休憩所でmoonさんと再会した。

そのときの気持ちを背負って、意地張ってゴールした。

これが、去年の100kmウォーク。

俺の、100kmウォーク。

あららちんも、カービィさんも、そのときの気持ちを日記に書いてた。
自分も書きたかったけど、うまく言葉にできなかった。

2人は、俺のなんかよりもずっと前からmoonさんと付き合いがあったし、
長い間、密度の濃い時間を過ごしてきてた。

だから、俺なんかの何倍、何十倍、何百倍も悔しかったと思う。

今回の100kmに懸ける想いは、moonさんに対する想いは、
他の誰よりも強かったと思う。

この100kmを終えてから、急激に仲良くなったカービィさんとは
よく飲み会の後に一緒に帰った。

酔っ払って吊り革に身体を預けながら、
必ずといっていいほど、カービィさんはこう言ってた。

「俺の100kmウォークはまだ終わってない」

この言葉がどれだけ重い覚悟の言葉か、
あの距離を、100kmを歩いた人なら分かる。

あの辛さったらない。できればもうやりたくない。

もう1度、あれを経験しようって言ってるんだ、この人は。

仲間のために。

凄い素敵な関係だと思った。

自分も、カービィさんには及ばないかもしれないけど、
同じ気持ちは持っていた。

仲間だと感じていた。

戦友だと感じていた。

100kmに挑戦するキッカケを作ってくれたmoonさん、
大会まで引っ張ってってくれたmoonさん、
その彼がゴールするまで、この挑戦は終われないって思ってた。

でも、moonさんがやるって言い出すまでは、
なるべく自分からはその話題を出さないように、とも思ってた。

葛藤もあったし、正直、100kmって距離が怖かった。

時期的にも仕事が忙しくなってくるって感覚はあったから、
俺も出るからmoonさんも、とは言えなかった。

まぁ、もちろんあれだけの体験だもの、
お酒を飲んだら出ちゃうし言っちゃうんだけどさ。

だから、moonさんが今年も100km挑戦したいって言ってくれたとき、
力を貸して欲しいって言ってくれたとき、もの凄い嬉しかった。

これで、あの場所に、ずっと引っ掛かってたあの陸橋下に、
今度こそ決着をつけられるって思った。

今度こそ、moonさんと一緒にあの場所を越えよう。


それが、俺の今年の100kmウォーク。


目標が決まった。

2012年1月。歩こう、と決めた。

 




 →その2へつづく


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HN:桶屋が儲かる

都内在住、30代バツイチ♂
多感な青春時代に
伊集院光を聞き育つ。

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