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撃ち抜けないのは、美女の心と物事の急所だけさ。
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マリアビートル』。

一言で現すなら
カタルシスのない『今日から俺は(漫画)』。

もちろん面白かったんだけどね。
感想にはネタバレも含まれるので、嫌な方は飛ばしてください。


何と言うのか、仮面ライダーを見ていたはずなのに、
横から出てきたウルトラマンに
敵の怪人が突然倒されてしまうような、そんな印象を受けた。

正直もったいないって思ったよ。
物語は、複数の殺し屋たちの視点を借りて進む。


酒浸りの元殺し屋「木村」は、幼い息子に重傷を負わせた
悪意の塊のような中学生「王子」に復讐するため、
東京発盛岡行きの東北新幹線〈はやて〉に乗り込む。

一方〈はやて〉には、奪還した人質と身代金を盛岡まで護送する
2人組の殺し屋「蜜柑」と「檸檬」が乗っていた。
彼らは、車中で人質を何者かに殺され、
また身代金の入ったトランクも紛失してしまう。

また一方では、トランク強奪を指示された、
何をしてもツキのない殺し屋「七尾」。
彼は奪ったトランクを手に、早々と〈はやて〉から降りるはずだったが・・・。


物騒な殺し屋たちが織りなす2時間30分の物語。

疾走感がある文体で、
一気に読めるエンターテイメントに仕上がってる。

中でも秀逸なのが「悪意」の描写だ。

この作中には、本当に胸糞悪くなるような悪意が描かれてるんだけど、
この描写が読んでいて実に気分が悪い(褒め言葉)。

『今日から俺は』の西森さんもムカツク登場人物の
描写に関してはかなり上手い作家さんだと思うんだけど、
伊坂さんはそれを活字で、より深く、よりエグく表現している。

ただ、『今日から俺は』との違いは、最後の最後。
その作品が読者にとって、自分にとってどう快感なのか、という部分。

西森さんは最後は絶対にスカッとさせてくれるだよね。

そこに至るまでに鬱積した陰々滅滅とした気分を、
思い入れのある主人公が、必ず、思いっきり晴らしてくれる。

絶対的な強さへの憧れというか、
問答無用のカッコよさというか、
とにかく読んでて気分が良い。

「勧善懲悪」ならぬ「勧悪懲悪」とでもいうべき物語の鉄板だと思う。

しかし、残念ながらこの作品は最初の悪意の描写が凄すぎるせいで、
それを晴らすだけの「懲悪」のバランスがすこぶる悪いのだ。

これ、本当にもったいない。

せっかく掘り下げて描き出した人物の背景や奥行きみたいなものが、
全部横から出てきたよく知らない人に奪われちゃう印象なんだよね。

で、なんでこんな感じにしちゃったんだろうって思って調べてみたら、
この作品は書き下ろしではあるものの、時間軸としては
『グラスホッパー』って物語の続編なんだってことが分かった。

同作の登場人物も何人か登場しているみたい。

それで、ああ成程なって。

実は、この『マリアビートル』に登場する事柄の中で、、
ときどきずいぶん簡素な描写で済ましてると感じる
登場人物や出来事が出てくることがあった。

読んでるときは多少違和感がある程度だったのだけど、
どうやらそのあたりの内容が、いわゆる前作
『グラスホッパー』の登場人物や出来事にあたるみたいなのだ。

前作の登場人物であれば、その物語自体が奥行きとなる。

読者の思い入れも強いから、
その分、続編での細かい描写は蛇足でしかない。

だからきっと伊坂さんも敢えて描かなかったのだ。

そう理解すると、なんとなく感じていた
読後のもやもやが少し晴れた気がした。

つまり、前作を読まずに続編から入ってしまった自分にとって
その簡素な描写で描かれた人物は、結局のところ
突然登場した「よく分からないけど凄そうな人」に過ぎず、そのせいで
あれだけの胸糞の悪さを感じた抜群の悪意を吹き飛ばすだけの説得力が
どうにもこうにも欠けてしまっていたのだな、と。

もったいないよなぁ・・・

そういう意味ではちゃんと億劫がらずに
『グラスホッパー』から読んどきゃよかったと後悔したよ。

せっかくの作品だもの、120%楽しみたかったな。

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伊集院光を聞き育つ。

撃ち抜けないのは美女の心と物事の急所だけさ。

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