小一時間前に「今どこにいいる？」と連絡があり、
彼がわりと（というか、かなり）遠くに居たので
俺らもまさか来ると思わないから表参道で買い物してると答えたのだけど、
そしたら今、運転手付きの黒い車でヒルズの前に乗りけ、
「着いたから出てこい、入口で待ってる」との連絡が。

彼女にとっては超大口の商談相手でもあり、
かつ未収金もあるので無下に断るわけにはいかない。
しかしながら今日は別の予定もあるし、行きたくない。

その予定を口実にしたら彼は間違いなくついてくる。
何より、最も危惧すべきはそもそも彼女がオフに自分以外の男性と
過ごしてると分かれば、彼が間違いなく怒り狂うであろう点。

もちろん単なる友達だと言い張ることはできるが、
彼女の服装はこのあとの予定に合わせて選んでいるので、
どこからどう見ても問答無用で気合いが入っている。
嫉妬深く執念深い彼のこと、間違いなく不要な深読みをしてくるはずだ。

吹き抜け構造の表参道ヒルズの中を無暗に歩き回るわけにはいかない。
鬼のような催促の電話が鳴り響く中、薄暗いヒルズの裏手に隠れ、
どうすればこの場を上手く切り抜けることができるか話し合う。



表参道側に出る3つの出口は彼と彼の側近、運転手で固められている。
残る裏道へ抜ける最後の出口、ノースエントランスは
彼の待つメインエントランスの正面に位置している。

地下の駐車場から外に出る抜け道はないか？非常階段は？
その場で服を買い、変装しての強行突破？

短時間で実現可能で、かつ頭の切れる彼からの誘いを怒らせることなく断り、
この場を円滑に、そして何より円満に切り抜ける方法を考えろ。頭を使え。

残された時間は多くない、
もちろん予め用意された「正解ルート」など存在するはずもない。

相手との手に汗握る心理戦、目の前で繰り広げられる言葉の駆け引き、
その裏に隠された意図を読み切り、相手の出方を予想する。

「どうしよう！？どうすればいい！？」

彼女から頼られる快感。迫りくる圧力、音のないカウントダウン。
これはお互いのプライドと頭脳を賭けた極限の脱出ゲーム！

さぁ、君はこの巨大な密室から抜け出すことができるだろうか！？