忍者ブログ
撃ち抜けないのは、美女の心と物事の急所だけさ。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

その日も確定申告の追い込みで、ただでさえ雑多な事務所の中は
いつにも増して帳簿書類で溢れていた。

このタイミングだから良かったのか、悪かったのかは分からない。
でも少なくとも、申告期限の直前だったからこそ
普段は外出がちな従業員全員が揃っていたのは幸いだったと思う。

もし誰かと連絡が取れない状況であったなら
あれほど早い帰宅命令は出なかったかもしれない。

大きな揺れは会議室の本棚を倒し、倒れた本棚が応接机を割って
所内の複合機を大きく揺れ動かした。

幸い怪我人は出なかった。
ネットで情報を収集するとともに、崩れ落ちた書類の束を片付けながら
ラジオから流れるニュースに耳を傾ける。

帰宅命令が出るのに、それほど時間はかからなかった。

交通機関が麻痺していこともあり帰り道の国道は人と車で溢れ、
方向が同じだった同僚と当時の自宅まで約12kmの道のりを歩いて帰るのに
3時間半以上の時間が必要だった。

まだ100kmウォークを経験する前。
今なら事務所に置きっぱなしにしてあるランニングシューズに履き替えて、
ちょっくら気合い入れて歩けば帰れるなって距離。
下手すれば走っても帰れるだろう。なんてことのない、どうってない距離だ。

でも、当時の自分にしてみれば人生で最も長く感じた帰り道だった。

道中、公衆電話に並ぶ長い人の列を見ながら、
携帯電話に本格的な規制がかかる前に
早いタイミングで家族と連絡を取ることができた自分は
幸運だったと気付かされた。

延々と続く人の列の中で、不安と緊張と、そして不謹慎だけど好奇心とが
ないまぜになって、不思議な高揚感に包まれていた。

同僚とともに最寄り駅に着くと、その安堵感から
とりあえず一杯飲んで帰ろうよって話になり、
近くの小汚い居酒屋に入って乾杯のビールを流し込んだ。
渇いた喉に冷たく冷えたビールが抜群に美味しかったのを覚えている。

ときたま起こる余震を感じながら、
居酒屋に置かれたテレビにふと目を向ける。

そこから流れている映像は、まるでどこかの終末映画のワンシーンか、
悪趣味なエイプリルフールの衝撃映像のようだった。

まさかこれほど大きな被害が出ているなんて思わなかった。
そのとき初めて、この震災を知った。

あれから4年の月日が流れ、震災は完全に風化した。

街は過ぎた灯を取り戻し、夜は再び明るくなった。
日々の生活に追われるばかりで震災を意識する日はすっかり無くなった。

ビートたけしは言った。

人の命は、2万分の1でも8万分の1でもない。
そうじゃなくて、
そこには「1人が死んだ事件が2万件あった」ってことなんだと。

倉本聰は言った。

本来、風化とは岩が何千年、何万年、何億年かかって
塵となり飛散することをいう。
それがわずか数年前の原発事故がこんなにも脆く、
早くも風化の様相を呈していることに激しい憤りを感じる、と。

阪神淡路大震災と東日本大震災を単純に比較することはできないけれど、
前者は4年間で見違えるような復興を遂げた。

震災と原発事故をいっしょくたに論じるつもりはないけれど、
どちらもお世辞にも解決したとは言い難い状況が今も続く。

そこだけの時間が止まり、
他のすべてから置いてけぼりをくらった感じ。

中島みゆきが震災を歌ったとされる曲がある。
今日は、これを聞いて仕事してる。

打ちのめされたら 打ちひしがれたら
値打ちはそこ止まりだろうか

踏み倒されたら 踏みにじられたら
答えはそこ止まりだろうか

光へ翔び去る翼の羽音を地べたで聞きながら
望みの糸は切れても 救いの糸は切れない

泣き慣れた者は強かろう 敗者復活戦
あざ笑え英雄よ 嗤うな傷ある者よ

傷から芽を出せ 倒木の復活戦

叩き折られたら 貶められたら
宇宙はそこ止まりだろうか

完膚なきまでの負けに違いない 誰から眺めても
望みの糸は切れても 救いの糸は切れない

泣き慣れた者は強かろう 敗者復活戦
勝ち驕れ英雄よ 驕るな傷ある者よ

傷から芽を出せ 倒木の復活戦
傷から芽を出せ 倒木の復活戦


正直だからなんだって話だけど、
そういえば今日はそんな日だったねって、ちょっと思い出したんだ。
PR
PR
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
プロフィール

HN:桶屋が儲かる

多感な青春時代に
伊集院光を聞き育つ。

撃ち抜けないのは美女の心と物事の急所だけさ。

since 2012.6.21
カウンター
ブログ内検索
PR2

Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]